土壌を化学的に見る―その2・電気伝導度(EC)―

土と肥料
わかば先生
わかば先生

土壌を化学的に見る、の第2弾はEC(電気伝導度)について解説するよ。ECは簡単に計測できることから、農業生産現場的にはとても身近なものなんだ。しっかり学んでいきましょう。

土壌の電気伝導度とは

土壌の電気伝導度とは、土壌中の水溶性塩類の総量のことです。一般的にはEC(イーシー)と呼びます。何を表しているかと言うと、直接的には土壌水溶液(土を水に溶かしたもの)の電気の通りやすさとなります。前ページの「土壌を化学的に見る、その1」で肥料は土壌中で陽イオンと陰イオンに電離することを学びました。このイオンは電気を通しやすい性質があります。肥料分を含んだ土壌の水溶液は、水溶液中にイオンが溶け込んでおり、よりイオンが多く溶け込んだ水溶液はより電気を通しやすくなります。

つまり、土壌水溶液のEC値が高い場合、その土壌に多くの肥料分が溶け込んでいることを意味します。ただし、EC値自体は土壌のイオンの量そのものを示すものではありません。電気の通りやすさの指標から、あくまで土壌中の肥料濃度を推測するものとなります。

ECの単位は、mS/cm(ミリジーメンス パー センチメーター)が用いられる場合が多いです。

土壌水溶液に微弱な電流を流して計測します。

ECと硝酸体窒素

ECが農業生産現場でよく用いられる理由は、計測が簡単なことに加えて、作物にとって有用な肥料成分である硝酸イオンと正の相関(比例の関係)が認められているからです。

一般的な土壌の場合、EC1.0mS/cmで硝酸体窒素20mg/100gに相当すると言われています。これは10a当たり約20kg分の肥料に相当します。このようにEC値から土壌にどの程度肥料養分が含まれているかを推測可能となります。下の図はECと窒素量との関係を示したものです。この図から分かる通り、ECが高いと窒素量も多くなっています。

ただし、ECを指標にした土壌肥料分の推定には注意を要することがあります。まず、この方法は推定に過ぎないこと、一般的ではない土壌の場合推定が難しいこと、石灰(カルシウム)、苦土(マグネシウム)、カリウムなどが多い圃場では推測値にばらつきがあること、などです。上の図についても、土壌が異なるとECと窒素量との推定線の傾きが変わることにも注意してください。つまり、土壌が異なれば上の図とは異なる結果であるということです。

これらを踏まえても、圃場にどれくらい肥料分が含まれているかを簡単に把握することができるため、非常に有用な方法となっています。

施設栽培の塩類集積

ビニールハウスなどの施設栽培では塩類集積という現象が起こることがあります。

塩類集積が進むと、土壌の陽イオン交換容量を超えて、土壌溶液中に多量のイオンが存在することになります。極端な場合は、土壌溶液の塩類濃度が濃くなり過ぎて、根から水分が土壌にしみ出るような状況となり、作物が脱水状態になる場合もあります。この状態を塩類濃度障害と言います。

塩類集積が起こっている圃場では、土壌表面に白い粉のようなものが浮き出てきますが、このような状態はすでに深刻な状況と言ってよいでしょう。そうならないためにも、施設栽培ではECの値をこまめに把握しておきましょう。

ECメーター

ECを簡単に計測できる機器が市販されています。ECメーターは主に①「土壌に直接挿して計測するタイプ」と②「土壌を採取して上澄み液を計測するタイプ」に分かれます。

いずれも、微弱な電流を流して計測することでEC値を測定します。

①のタイプは、主に土壌に測定部を挿入して「測定ボタン」を押すだけで計測値がリアルタイムで表示されます。とても簡便な反面、測定時の土壌水分や挿入する深さ、測定部がきちんと土壌に触れているかなどで計測値が変動する欠点もあります。

②のタイプは、計測したい土壌を採取し、精製水などで土壌を溶き、その上澄み液を計測部に浸すことでEC値を計測することができます。①のタイプに比べるとより正確な値を得ることが期待されます。こちらのタイプの欠点は、計測がやや煩雑であること、土壌の採取にコツがあり、たまたま採取した部分が濃かった、などのような失敗例もあります。

本記事で解説してきたように、ECは正確な値を求めるよりも、気軽に計測できることが重要です。もし正確さを求めるのであれば、EC値、硝酸イオン濃度、それぞれ正確な実験によって計測する方がよいでしょう。

本サイトは農業初心者を対象にしており、一般的な露地栽培、ビニールハウスを用いた土耕栽培を想定しています。これらの栽培様式では、①「土壌に直接挿して計測するタイプ」の比較的安価なものを取りそろえるとよいかと思います。

一方、もし隔離栽培などで土壌を用いない栽培方法、ロックウール耕や水耕栽培のような場合は話が変わります。養液を直接に近い形で植物に与えますので、ECも正確な値を計測できるようにした方がよいでしょう。養液・導入部・廃液のそれぞれで常時計測(モニタリング)するくらいの丁寧さが必要となります。

わかば先生
わかば先生

本サイトでは、小規模農園経営であっても「養液土耕栽培」の導入はおススメしたいと考えているよ。養液土耕栽培では、ECのこまめな計測は必要になってくるんだ。養液土耕栽培の解説はいずれ行いたいと思います。

商品紹介ページ
① 土壌に直接挿すタイプ

② 上澄み液を計測するタイプ

著者が使用した限りで言うと、価格が安いからと言って精度に劣るとは限らないです。ただし、安価なものは耐久性に難がある印象です。初めて使う場合は、まず安価なものを入手し、営農に有用と感じたらきちんとしたものを購入すればよいでしょう。