植物栽培の基本は光合成

栽培の考え方

「甘い野菜がたくさんとれる肥料」っていう肥料を買ったのよ。たくさん与えてたくさん収穫しよう。肥料ってまるで作物にとっての食事ね。

わかば先生
わかば先生

ちょっと待った!それは大きな勘違いだよ。植物がどうして生長するのか、とても重要なところだからもう一度確認していこう。

植物は光合成によって生長する

わかば先生
わかば先生

あえて言うのであれば、植物にとっての食事に当たるものは「光」「二酸化炭素」「水」だね。なぜなら、植物は光合成によって得られたものをエネルギーとして生長するからね。

光合成 : 二酸化炭素 + 水 + 光エネルギー ⇒ 糖 + 酸素

肥料を植物にとっての食事のように捉えている方が初心者に多い印象があります。中学校や高校の理科の授業で学んだ方も多いかと思いますが、植物は光をエネルギーに換えて生長することを思い出してください。とても重要なことですのであえて繰り返します。植物栽培の基本は光合成です。

自らコントロールしやすい肥料に意識が向きやすくなるのは仕方のないことですが、肥料を植物の食事として捉えてしまうと、後々栽培管理の考え方がズレてしまう恐れがあります。(肥料は肥料でとても重要なので、別ページで解説いたします)。

人によっては当たり前と感じるかもしれませんが、とても重要なことですので改めて理解を深めていきましょう。なお、光合成は学問としても深く研究されており、とても奥の深い分野です。本記事では、新規就農者などの初心者にとって分かりやすく、そして実践的となるようコンパクトにまとめております。作物栽培技術向上に役立つ内容ですので、頑張って学んでいきましょう!

呼吸と光合成の関係を理解しよう

植物が呼吸するんですか??植物には口がついてないですよ?

わかば先生
わかば先生

・・・。呼吸というとどうしても私たち動物だけのものだと思いがちだけど、植物もちゃんと呼吸をしているんだ。植物の呼吸も動物と同じで空気中から酸素を体内に取り入れ二酸化炭素として排出しているよ。

今気付いたのですが、呼吸って光合成の逆じゃないですか?呼吸は酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す、逆に光合成は二酸化炭素を吸って酸素を吐き出す。

わかば先生
わかば先生

良いところに気付きました。おおまかには呼吸と光合成は逆の反応と言えますね。

光合成とは、緑色植物が光のエネルギーを利用して、空気中の二酸化炭素と主に根から吸い上げた水を材料に糖やデンプンなどの有機物に合成する生理作用を言います。

逆に呼吸とは、空気中の酸素と体内に蓄えた糖やデンプンなどの有機物を材料に生長や生存に必要なエネルギーを取り出す生理作用を言います。

呼吸 : 酸素 + 糖 ⇒ 代謝エネルギー + 二酸化炭素 + 水

植物は光がある環境であれば光合成と呼吸を同時進行で行っています(完全に真っ暗であれば呼吸のみ行います)。

糖などを蓄える光合成と、糖などを消費する呼吸が同時に行われるわけですから、光合成によって糖が貯蓄され、呼吸によって貯蓄された糖を生長や生存に必要なエネルギーに換えているわけです。また、余剰の糖は果実や種子などに貯蔵されます

この点、家計に似ていると思いませんか?毎月収入を得て(光合成)生活に必要な支出を行い(呼吸)、余剰は次世代に向けた貯蓄(種子や果実など)となります。今のところ、そんなイメージを持てれば十分です。

【補足事項】今後、栽培技術を学ぶうえで必要なとなるかもしれませんので、次の式と用語も理解しておきましょう。

  みかけの光合成速度 = 真の光合成速度 - 呼吸速度

実際には、光合成は時間当たりの二酸化炭素の排出量(単位:g/㎡/s)から換算して算出します(そのため「速度」と表記しています)。しかし、先ほど解説してきたように光合成と呼吸は同時に行われますので、直接計測できるものは植物が行った全ての光合成量(真の光合成速度)から呼吸によって消費した量(呼吸速度)を差し引いたもの(みかけの光合成速度)となります。

気温と光合成の関係

気温と光合成との関係はどうでしょうか。結論から言うと「みかけの光合成速度は最大となる温度がある」ということです。この最大となる温度は作物によって異なりますが概ね25℃から35℃の範囲と捉えておいてください。特に、より高温になると呼吸速度が急激に増大する一方で真の光合成速度は増大しないため、みかけの光合成速度は増大しないことになります。

※ 厳密に言うと、問題となるのは気温ではなく葉の温度(葉温)ですが、本サイトは農業の基礎知識の習得を目的としているため、ここではざっくりとした理解で十分です。

蒸散・湿度と光合成の関係

わかば先生
わかば先生

光合成は多くの環境要因と密接に関わってくるんだ。ここでは、葉の気孔から水蒸気が放出される蒸散と、湿度、光合成の関係を見ていこう。

蒸散とは、植物体内の水が気化して水蒸気となり、気孔などから大気中に放出されることを言います。この時、気化熱(液体が気体に変化する際に周囲から奪う熱のこと)を奪うため気温は低下します。一方、水蒸気が放出されるため湿度は上昇します。蒸散の量を単位面積当たり・単位時間当たりにみたものを蒸散速度(単位:g/㎡/s)と言います。

わかば先生
わかば先生

ここで大きなポイントがあるよ。蒸散が行われる気孔は、水蒸気を放出するだけでなく光合成の材料になる二酸化炭素を体内に取り入れる場所でもあるんだ。

気孔とは、主に葉の裏などに存在する小さな穴で、蒸散による水蒸気放出の他、光合成に必要な二酸化炭素の取り入れ、あるいは酸素の排出が行われる場所です。
孔辺細胞と呼ばれる2つの細胞が唇型に配置されていて、孔辺細胞の働きにより気孔を閉じたり開いたりすることができます。順当に蒸散が行われれば気孔は開いた状態となりますが、蒸散速度が過剰に大きくなった場合など、植物体内の水分が欠乏した状態となると気孔は閉じてしまいます。
その結果、光合成の材料となる二酸化炭素も体内に取り入れることができず、みかけの光合成速度も低下してしまします。
わかば先生
わかば先生

蒸散速度が過剰に大きくなる場合というのは、主に湿度が低い場合に起こりやすいんだ。気孔内部の空気の湿度と気孔の外(葉の裏周辺)の空気の湿度の差が大きい、つまり外の空気が乾いている状態だと、どんどん植物から水蒸気が出て行ってしまうからね。

先生・・・今回の内容は理科の学習みたいでちょっと難しいなぁ・・・

わかば先生
わかば先生

少し理論的な内容になってしまったけど、やっぱり理解しておいてほしい内容なんだよ。どういうメカニズムで植物は生長するか、それを知っているだけでも栽培管理のコツがつかみやすくなるんだ。