N15kg・・・肥料ってこんなに必要なの?・・・PとKって??
おや、初めての方だね。それは窒素成分量で10a当たり15kg投入してください、っていう意味だよ。ちなみにPとKはそれぞれリンとカリウムのことだよ。肥料の計算は初歩の初歩ではあるけど、既に知っている人も確認の意味も含めて再確認してね。
肥料計算をする前に知っておきたいこと
農業生産のために肥料を与える場合、基本的に窒素(N)・リン酸(P)・カリ(K)の三要素を与えることを考えます。なぜこの三要素のみ肥料として与えるのでしょうか。作物は窒素・リン酸・カリ以外の養分を必要としますが、その多くは土壌中に既に含まれているケースが多いため、特に必要な場合のみ別に施用します。
この三要素については、作物が特に多く吸収するため、継続的に与えないと土壌から不足してしまうため、この三要素を肥料として与えるわけです。
では、窒素・リン酸・カリの三要素は土や水から供給されないのでしょうか。答えはノーです。窒素は土壌から流亡(雨などによって肥料成分が流出)しやすいため、基本的には外部からの供給が必要です。一方、リン酸やカリなどは土壌中に蓄積しやすいため、肥料として施肥しなくてもすぐには欠乏状態にはなりません。そのため、少しずつ減っていかないために供給するようなイメージです。あとで解説する施肥基準では、この自然に供給される肥料成分(「地力」と言ったりします)は標準的な供給量を加味して設定されていますので、その点も覚えておきましょう。
肥料成分の見方
市販の肥料袋には下の図のように肥料成分が表記されています。これは販売されている商品に含まれる保証された成分量を示しています。「15-15-15」のようにハイフンで区切られた3つの数字が並んでいます。これは左から窒素、リン酸、カリがそれぞれ何パーセント含まれているかを示しています。この場合、窒素(N2)が15%、リン酸(P2O5)が15%、カリ(K2O)が15%入っている、ということになります。
もし20kgの肥料袋を一つ畑に投入するとなると、その畑には20kg×15%=3kgの窒素、20kg×15%=3kgのリン酸、20kg×15%=3kgのカリ、が投入されたことになります。
肥料の計算手順
では、実際の計算手順を例に沿って見ていきましょう。
8-10-8の肥料の投入量を求めるので、投入量をいったん”□”として計算します。次にまずは窒素を基準に計算します(理由は次項で解説します)。
[計算] 窒素:
□kg×8%=12kg
□kg×0.08=12kg
12kg÷0.08=□
□=150kg
答えは150kgとなります。どうだったでしょうか。簡単でしたか?なぜ窒素だけ計算して答えになるのかは後で説明するとして、この場合のリン酸とカリの投入量も見てみましょう。
リン酸:□kg×10%=15kg
15kg÷0.1=150kg
カリ:□kg×8%=12kg
12kg÷0.08=150kg
今回はリン酸もカリを基準に計算しても同じ150kgでした。これは作題の都合上あえて一致するようにしたので、言わばたまたまですね。「必要な成分量÷窒素の濃度(%)」で簡単に計算できますのでぜひ覚えておいてください。では次の例を見てみましょう。
ここでは①の6-4-6の方の投入量を□、②の0-17.5-0の方の投入量を△とします。ここでもまずは窒素を基準に計算していきましょう。②の方は窒素が0なので、①から計算していきます。そして【例1】で学んだ「必要な成分量÷窒素の濃度(%)」で計算していきます。
[計算] 窒素:
□kg×6%=8kg
□kg×0.06=8kg
8kg÷0.06=□kg
□=133.3kg(小数点切り捨て)
さて、窒素を基準に計算した133.3kg/10a投入した場合、リン酸やカリはどうなるでしょうか。①の肥料のリン酸の濃度は4%、カリは6%でしたね。
リン酸:133.3kg×4%=5.332kg
カリ:133.3kg×6%=8kg
このようにカリは8kgでOKですが、リン酸は必要量8kgに対して5.332kgなので不足しています。ここで②の肥料が登場します。まずは不足しているリン酸の量を求めましょう。
不足しているリン酸:8kg-5.332kg=2.668kg
次に②の肥料を使って投入量を再計算していきます。ここでは投入量を◇とします。それでは不足するリン酸を補うために必要な②の肥料の量を計算してきましょう。計算は先ほどと同じく「必要な成分量÷窒素の濃度(%)」で求めます。
リン酸:◇kg×17.5%=2.668kg
2.668kg÷0.175=◇kg
◇kg=15.2kg(小数点切り捨て)
以上のことから、【例2】の答えは①の肥料を133.3kg、②の肥料を15.2kgとなります。難しかったですか?少しややこしいですが、【例2】の計算手順が理解できれば基本はOKですので、自信を持ってください。
施肥基準とは
施肥基準とは、各都道府県が作物ごとに有機物の種類や土壌型などに配慮した標準的な施肥の基準のことです。
本来、作物の種類や品種、天候などによって生育の仕方が異なるものです。そうなると、必要な肥料分の量、あるいは肥料を必要とする時期が異なると言えます。さらに、土や水から供給される肥料分もありますし、投入された肥料がどの程度利用されるかは土壌の種類によって異なるわけです。こうしたことから、本来の話をすれば、圃場ごとに投入すべき肥料の量は異なる、というのが原則と言えましょう。
しかし、これでは実務的に困ってしまいます。圃場ごとに必要な肥料分を時期ごとに分けて把握するのは困難なことです。
そこで、便宜上の数値を出すため、あくまで標準的な場合の施肥量というものを各都道府県で作成して公表しているのです。「〇〇県 施肥基準」などで検索すればすぐに見つかると思いますので、お住まいの自治体の施肥基準を見てみて下さい。
実務上の話
ここから実務的な話になります。
前々項の肥料の計算手順の中の【例2】を思い出してください。【例2】では①の肥料で窒素を基準に計算し、不足したリン酸分を②の肥料で補う計算をしました。しかし、実務では②の肥料を投入しないこともあります。
理由はいくつかあります。まず、窒素の過不足は生育に大きな影響を与えますが、リン酸・カリは窒素ほどの影響はないからです。理由は冒頭部分で解説した通り、リン酸やカリは土壌に蓄積しやすく、多少の過不足があっても土が緩衝してくれるからです。【例2】では不足分がそれ程多くないため、もし手元に②の肥料がなければ投入しないケースがあります。
そしてもう一つは、先ほど解説した通り、施肥基準自体があくまで標準的な場合を想定しており、厳密な必要量とは異なるからです。いずれ、施肥の手間を省くことも実務上必要な場合もあります。
肥料には三要素の成分量の比率によって分類されます。
三要素が同一の水平型、リン酸が多い山型、リン酸が少ない谷型、窒素・リン酸・カリの順で多い右下がり型、その逆の右上がり型などです。
先ほどの【例2】では、もし手元に水平型の肥料があれば、これを使うことでリン酸の不足は生じないことなります。また、もし施肥基準で山型の必要量を示されていたら、山型肥料を用いることで過不足が生じにくくなります。
この場合、あくまで実務上過不足を少なくするという観点から、必ずしも三要素の比率が一致する必要はありません。
最後に、もし家庭菜園などで、10aという単位ではなく㎡単位の圃場の場合の解説をします。10aは1,000㎡なので、面積も重さもどちらも1000分の1にしてしまえば簡単です。つまり、10a当たり1kgは 1㎡当たり1gとなりますよね。施肥基準で10a当たり12kg、とあれば㎡当たり12gと読み替えることができます。
計算が多くて分かりづらかったかな?「必要な成分量÷窒素濃度(%)」は覚えておくと便利だよ!