土壌を化学的に見る―その3・土壌pH―

土と肥料
わかば先生
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土壌を化学的に見る、の第3弾は土壌の酸性・アルカリ性に関わる部分を解説していきます。

土壌の酸性化、と言う言葉は聞いたことがあるでしょうか。アジサイの花の色が土壌の酸性・アルカリ性によって変わる、という話を聞いたことがある人も多いと思います。土壌が酸性化している、あるいはアルカリ化していることは、作物の生育に大きく影響を与えます。

今回もできるだけ営農実務に役立つ、もしくは知っておく必要がある部分に絞って解説していきます。

土壌pHとは?

まず、pH(ピーエイチ、もしくはペーハー)とは、酸性を示す水素イオン(H+)の濃度を負の常用対数で示し、酸やアルカリの強さを表すものです。

pH = -log(H+

pHの値が小さい程、H+濃度が高く酸性が強く、逆にpHの値が大きい程、H+濃度が低く酸性が弱い(アルカリが強い)状態となります。なお、pH7の時は中性と言って、酸性でもアルカリ性でもない状態です。

わかば先生
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理科の時間の復習だね。pHが小さい程、H+濃度が高いんだ。常識的な感覚からは逆になっていることも覚えておこう。

土壌のpHとは、土壌水溶液のpHのことです。土壌pHを計測する方法は2種類あって、一つは土壌1に対して水2.5の重量割合になるように土壌に水を加え、よく攪拌してから電極をセンサーとするpHメーターで測定する方法です。水を用いたこちらの方法が一般的となっています。もう一つは塩化カリウム(KCl)溶液を用いる方法ですが、こちらはやや特殊な場面で用いられます。この方法は水を用いるよりも酸性が強くなります。pHを比較する場合、水で計測したものか、塩化カリウムで計測したのかはきちんと確認しましょう。

わかば先生
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土壌pHは5~7くらいの範囲で計測される場合が多いです。

作物の生育とpH

極端な酸性土壌やアルカリ土壌では作物は正常に生育しません。作物には適正なpHの範囲があり、また作物ごとに適性土壌から逸脱した場合の強さ、弱さがあります。

自分が栽培しようとする作物の適性pHを把握しておきましょう。

上の表を見て気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、作物の適性は中性からやや酸性の範囲になります。また、よく問題として耳にするのは、適性pHからより酸性に傾いた場合です。これはなぜでしょう。答えは、気象条件、あるいは土壌の成り立ちから、日本の土壌は一般的に酸性化しやすく、そのため問題が生じやすいためです。

では、次項で「なぜ土壌は酸性化しやすいか」を学んでいくとして、まずは「なぜ酸性土壌だと問題が生じるか」について解説していきます。

水素イオン(H+)自体は直接悪影響を与えることは少ない

土壌の酸性=水素イオン(H+)濃度の上昇ですから、この水素イオン(H+)が作物に悪影響を与えると考えがちです。しかし、答えはNO。水素イオン自体が作物に直接悪影響を与えることは少ないです。水素イオンは次に解説する別の要因を引き起こす役割をします。

アルミニウム、鉄、マンガンの可溶化

pHが5程度になると、土壌中に多量に存在するアルミニウム(Al)が土壌溶液中に溶け出します。このアルミニウムは作物の根の細胞に直接害を与えます。また、鉄(Fe)やマンガン(Mn)も同様に溶けやすくなります。

一般的に、酸性土壌によって作物の生育が抑制される直接的な理由は、このアルミニウムなどの影響と言われています。

リンの吸収低下

リンは植物三大栄養素(窒素、リン、カリウム)の一つで、生育に必須な栄養素です。リンは通常リン酸イオン(PO43−)として存在していますが、アルミニウム(Al)や鉄(Fe)と結合しやすい性質があります。また、アルミニウムなどと結合した場合、水に溶けにくくなり、植物が利用しにくい状態となってしまいます。先ほど解説したように、pHが5程度になるとアルミニウムなどが土壌中に溶け出してくるため、リンと結合してしまいます。このため、土壌が酸性となるとリンの吸収が低下し、リン欠乏が起こりやすくなります。

その他、カルシウム・マグネシウムの溶脱、微量要素(植物にとって必要であるが必要量が少ない要素)であるホウ素(B)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)などが吸収しにくくなる、などの問題があります。

日本の土壌は酸性化しやすいのに、土壌が酸性になっちゃうとたくさんの問題がおこるものなのね・・・

わかば先生
わかば先生

そうなんだ。だから酸性土壌を適性pHに近づけることはとても重要なんだ。「銀河鉄道の夜」などで有名な宮沢賢治も、農学校の先生時代に酸性土壌の改良を熱心に指導していたらしいよ。

なぜ土壌は酸性化しやすいのか

降雨による土壌の酸性化

日本は雨が多い国です。この雨、実は酸性物質であることをご存じでしょうか。雨は大気中の二酸化炭素を吸収しながら落下してきます。二酸化炭素が雨に溶けることによって、雨には炭酸イオンなどの他、水素イオン()が含まれることになります。

雨によって多量の水素イオンが土壌に入るとどうなるか図で説明します。

降雨前は、鉱物粒子の負電荷にカルシウムイオン(Ca)などの陽イオンが電子的に結合した状態です。ここに、降雨による水素イオンが入り込むことによって、陽イオンと水素イオンが置き換わります。置き換わりによって土壌溶液中に出てきた陽イオンは、雨によって下層へ押し出されます(これを溶脱(ようだつ)と言います)。やがて鉱物粒子が保持できなくなった水素イオンが土壌溶液中にあふれ出てくることで、土壌中の水素イオン濃度が上昇します。こうして土壌は酸性化していくのです。

化学肥料による土壌の酸性化

私たちが日常的に用いる肥料には、土壌を酸性化させやすいものが存在します。例えば、「硫安」と言われる硫酸アンモニウムや、「塩安」と言われる塩酸アンモニウムなどがそれに当たります。

硫安は硫酸イオン、塩安は塩素イオンが含まれており、これらに土壌中の水素イオンが結合することでそれぞれ硫酸と塩酸という酸性物質を生じさせます。これが土壌酸性化の原因となります。

一方、同じ窒素肥料であっても、硫安のように酸性物質を生じさせない肥料もあります。代表的なものは尿素です。また、肥料として用いられ、土壌をアルカリ化しやすいものもあります。代表的なものは石灰窒素などです。

肥料として用いて土壌を酸性化させやすいものを「生理的酸性肥料」、酸性化させないものを「生理的中性肥料」、アルカリ化させやすいものを「生理的アルカリ肥料」と言います。

わかば先生
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これらの用語は実務的に使われることはあまりありません。ですが、自分が使う肥料が土壌を酸性化させやすいかどうかはキチンと把握しておきましょう。こういうところで栽培力に差がつくんですよ!

※ アルカリ肥料を用いる場合、硫安などのアンモニウム肥料と同時使用すると、アンモニアの揮発によって窒素量が低下するため注意が必要

酸性土壌の改良

過度に酸性化した土壌が作物の生育に好ましくないことを学びました。では、自分の圃場が過度に酸性化している場合、どのように対処すればよいのでしょうか。ここでは、酸性土壌の改良方法について学んでいきましょう。

石灰(カルシウム)資材の投入

酸性土壌を改良できる石灰資材が市販されているので、これらを利用していきましょう。炭カル(炭酸カルシウム)などがそれに当たります。一般的に用いられている資材とその使い方を下に掲出しています。

生石灰(酸化カルシウム)

生石灰(せいせっかい)はアルカリ度(酸性を中和する能力、程度で理解しておいてください)が80と高く速効性です。また、pH値を高く上昇させることができます。一般的に粉末状のものが多いです。生石灰を使用する場合は、施用後7~10日程度あけてから他の肥料の散布、植え付けを行う必要があります。

消石灰(水酸化カルシウム)

消石灰(しょうせっかい)はアルカリ度60と、生石灰に次いでアルカリ度が高い資材です。生石灰と同様、速効性であり高いpHまで上昇させることができます。また、生石灰の使用と同様、使用後植え付けや他肥料の散布まで7~10日程度あける必要があります。

生石灰、消石灰使用時の注意:どちらも強アルカリ資材のうえ、粉末状のものが多く、目に入ると大変危険です。ゴーグルを着用のうえ、風の弱い日に施用するなど、細心の注意を払ってください。
炭カル(炭酸カルシウム)

炭カルは酸性土壌の改良に最も用いられるポピュラーな資材です。アルカリ度53と、ここで掲出したアルカリ資材の中では最もアルカリ度が低い資材となります。また、炭カルは遅効性であり、すぐに酸性を改善しようとする場合には不向きです。その反面、安全性が高く、過度に投入してもアルカリ害が出にくい資材のため、とても使い勝手がよいです。初心者にはこの炭カルがおススメです。

苦土石灰(ドロマイト)

苦土石灰(苦土炭カルとも言います)は、石灰(カルシウム)と苦土(マグネシウム)を同時に補給することができることが何よりの特徴です。それ以外は炭カルと同様、遅効性である、効果はゆるやか、といった特徴があります。苦土の補給も兼ねることができるため、炭カルとうまく使い分けて下さい。

緩衝曲線法

酸性改良資材を使用する際、どれくらいの量を投入すればいいのでしょうか。答えは、「土壌によって異なる」です。身も蓋もない言い方になってしまいますが、土壌にはそれぞれ性質が異なります。特に、土壌には「緩衝能」と言って、アルカリ性資材を投入しても土自体がその効果を緩やかなものにしてしまいます。そのため、改良したい圃場の土を採取して、実験的な操作を経て投入量を決めていきます。

ここでは次の方法をご紹介します。

【準備するもの】圃場の土壌100g、炭カル、精製水、土壌と水の入る容器、pHメーター

【手順】①土壌100gに炭カル100mgを混ぜ合わせ、精製水250mlを加えてよく混合します。

②同様に土壌100gと炭カル200mg、500mg、800mg、1000mg、15000mgを異なる容器に入れ混ぜ合わせ、それぞれに精製水250mlを加えてよく混合します。

③24時間静置した後、土壌水溶液の上澄み部分をpHメーターで計測し記録する。

④得られたデータをグラフにする。

⑤縦軸の改良目標のpH値のところから右側に線を引く。

⑥グラフ線とぶつかったところから、真下へ線を引く。

⑦横軸と線が交わったところが、土壌100g当たりの炭カル投入量です。

土壌改良する深さを表層から10cmとしましょう。比重(体積当たりの重さ)を1.0と仮定すると、10aの土壌は100tとなります。先ほどのグラフ例では、土壌100g当たり750mgの炭カルが必要でした。この場合は次のような計算となります。

100,000,000g(10aの土壌の重さ)÷100g=1,000,000

土壌100g当たりに必要な炭カルが750mgだったので、これを1,000,000倍すれば10a当たりの必要炭カル量が分かります。

750mg×1,000,000=750kg

以上の計算から、10a当たり750kgの炭カルが必要となります。10a当たりとは言え、750kgの炭カルを散布するのは容易ではありません。このような大量の必要散布量が算出された場合、一度に全て投入するのではなく、毎年1回、数年にわたって散布するとよいでしょう。

わかば先生
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中和緩衝能曲線を作成するのがどうしても手間、という場合は毎年100~200kg/10a程度炭カルを投入しつつ、小まめにpHを計測して調整するという方法もあるよ。

有機物の投入による緩衝能力UP!

一般的に堆肥などの有機物に乏しい圃場は酸性に傾きやすい傾向があります。これは土壌の緩衝能が弱く、降雨による影響を大きく受けてしまうためです。堆肥などの有機物には、土壌の緩衝能を高める効果があるため、圃場に堆肥を投入することで土壌の酸性化を防ぐ効果も期待できます。

pHメーター

pFメーターに続き、pHメーターについても紹介します。pHは土壌に限らず多くの分野で使われる指標ですので、pHメーターもいくつか種類があります。農業分野では、土壌に挿しこんで簡易に計測するタイプがよいでしょう。もし水耕栽培などのように、土壌を使わない栽培方法であれば計測の正確さが必要となります。その場合、実験室に設置するような、溶液に電極を差し込み計測するタイプが必要となります。



 初めて土壌pHメーターを購入するのであれば、上にあるシンワ測定のものが無難でしょう。この製品はpHだけでなく、地温(土壌の温度)や日照まで計測できるので、栽培の参考となります。

もし溶液自体を計測したいのであれば、アズワン ツインpHメーターII LAQUAtwin か、同じくシンワのデジタルpH計が良いかと思います。こちらのタイプで土壌を計測する場合、土壌1に対して精製水2.5の割合で土壌溶液を作り、静置した後上澄み液を計測してください。

わかば先生
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土壌を化学的に見るシリーズはどうでしたか?難しい内容でありますが、実務で必要となる部分に絞って解説しているので、わからない部分は繰り返し読んでみて下さいね。