今年のトマトは最初にたくさん実をつけたけど、気づけばあっという間に終わっちゃったのよ・・・
初心者の頃によくやる失敗の一つだね。その問題を解決するためには、まずは「栄養生長」と「生殖生長」について理解していこう。これを理解することで驚くほど収穫量が安定するんだ。
筆者がこれまで見てきた専門書では、この項目についてさらっと触れる程度か、あるいは学問的な解説にとどまるものが多かったように思います。一方、農業者への指導経験から言えることは、毎年地域の収量(収穫量)を上回るような農業者は、感覚的なものも含めますが、栄養生長と生殖生長への理解が深い方ばかりでした。
栽培のレベルアップのためにとても重要な項目ですので、なるべく分かりやすく解説していきますので頑張って理解していきましょう!本当に驚くほど生産量が安定してきますよ。
栄養生長と生殖生長とは
まずは、言葉の意味から入っていきましょう。
栄養生長する期間を栄養生長期間、生殖生長する期間を生殖生長期間と言います。
栄養生長期間:発芽から花をつける準備開始までの期間で、根や葉・茎が生長する。
生殖生長期間:花をつける準備開始以降の期間で、花や果実・種子がよく生長する
ここで重要な点は、栄養生長期間に生長する根や葉・茎は光合成をする、あるいは光合成の材料を補給するための部位であるため、将来的に収穫量の増加に結び付く、という点です。ここをしっかりと覚えておきましょう。
もう一つ重要な点は、作物によっては栄養生長しながら生殖生長もするものあるということです。例えばトマトです。実をつけながら茎も伸長していきますよね。このタイプの作物は栄養生長と生殖生長のバランスをとることが必要で、より栄養生長と生殖生長への理解が重要となってきます。この点については後述しますので、しっかり学んでいきましょう。
利用する部位によってパターンが異なる
栽培する作物の利用部位によって栄養生長と生殖生長の捉え方にいくつかのパターンがあります。例外も多くなってしまいますが、わかりやすくするためここでは大まかに3パターンに分けて解説していきます。
(1)栄養生長が重要で、生殖生長に転換すると困る場合
葉や株ごと収穫するような作物では、生殖生長に転換してしまうと商品価値を失ってしまいます。葉物野菜の多くはこれに該当します。このタイプは生殖生長期間に入る前に作物を大きく健全に育てること、これと併せてできる限り生殖生長に転換しないよう努める必要があります。
例:ネギ→花が出る茎(これを花茎(かけい)と言います)が伸びてきてしまい味が落ちて商品価値がなくなってしまいます。このような現象をとう立ち(抽苔(ちゅうだい))と言います。このタイプの作物では生殖生長へ転換する前に収穫してしまわなければいけません。
(2)栄養生長期間はしっかりと育て、生殖生長に転換後に収穫する場合
このタイプは栄養生長期間と生殖生長期間が比較的はっきりと分かれています。種子を収穫するイネ・大豆・小麦、花を収穫するブロッコリー・菜花、スイカ・オクラなどの果菜類などが該当します。このタイプは栄養生長期間に作物個体を大きく健全に育て、スムーズに生殖生長への転換を迎える必要があります。
例:大豆→栄養生長期間に順調に生育したため、葉や枝、節の数が多くなった。スムーズに生殖生長へ転換し、節に多くの花が着いた。花が実になり豆がたくさんとれた。
もし、いつまでも生殖生長へ転換しなければ豆が肥大する期間が短くなり、株は大きくてもとれる豆は小さく少ない、なんてことも起こりえます。
生殖生長への転換は環境条件によって決まることが多く、人がコントロールする術は多くありません。また、品種による影響が大きいため、「どの品種を栽培するか」がとても重要となってきます。
(3)栄養生長と生殖生長が同時にすすむ場合
家庭菜園で人気のトマト、きゅうり、ピーマン、なす、などがこれに該当します。このタイプは連続して花や果実をつけつつ、同時に茎やつるなども伸びてゆく性質があります。上記2タイプに比べると、栄養生長・生殖生長のバランスを見ながら栽培を管理しなくてはいけないので、少し難易度は上がります。一方、上手に管理できれば収穫量が飛躍的に増加するためやりがいがある品目とも言えます。
このタイプは光合成により葉で作られた栄養を「葉や茎の伸長に使うか」、「収穫物である果実へ使うか」、その分配の問題と捉えておくと解かりやすいです。
よく株式会社の利益分配に例えられます。会社が稼いだ利益を設備投資などへ再投資して会社を大きくするのか、あるいは株主へ配当金として配るか、という例えです。どちらか一方だけに分配するのでは、やはり後々問題となってくるでしょう。それと同じでバランスが必要となってきます。
どうしたら栄養生長から生殖生長へ転換するの?
結論から言うと、日長や気温などの環境要因に強く影響を受けます。具体的に何の環境要因に影響を受けるかは作物によって異なります。また、どの程度影響を受けるかは品種によって異なることが多いです。
有名な例では、イネや大豆は日長時間が短くなると花をつけて実を結びます。理科の時間に短日植物という言葉で教わった人も多いでしょう。日長以外では気温に影響を受ける場合もあります。日長と気温の両方の影響を受ける場合がほとんどです。
もう一つ、次のことを覚えておいてください。それは、植物は環境が自分に合わない状況となると、生殖生長へ強制的に転換する場合があるということです。そもそも、イネや大豆は日長が短くなるとなぜ生殖生長へ転換するのでしょうか?
それは、日長が短くなり始めるのは夏から秋であり、その後には植物の生存が厳しい冬がやってきます。その冬が始まる前に種子である「米」や「豆」をしっかりと実らせて次の世代へつなぐ必要があります。そのためには日長が短くなるサインを受けて、生殖生長へと転換するのです。
もし人の管理が不適切で、作物にとって厳しい環境になってしまった場合、例え十分に植物体が大きく育っていない場合でも生殖生長へと転換してしまいます。当然、収穫量は大きく減少してしまうでしょう。
日長や気温などのように人の力で変えられない部分が大きいでのですが、それでも人ができる範囲で、その作物にとって快適な環境を整えてあげましょう。
草勢との関係
栄養生長と生殖生長が同時に進む場合、特に草勢との関係が重要になってきます。初心者の段階では次のようにシンプルに捉えておけばOKです。
栄養生長と生殖生長が同時に進む場合、光合成により葉で作られた栄養を「葉や茎の伸長に使うか」、「収穫物である果実へ使うか」、その分配の問題であると学びました。草勢とは葉や茎の生長する勢いですから、分配を栄養生長である「葉や茎の伸長に使う」のであれば草勢は強い方向へ傾きます。逆に分配を生殖生長である「収穫物である果実へ使う」場合、草勢は弱い方向へ傾きます。
実際の栽培で草勢を強い方向に持っていきたい場合、果実に栄養が行かないようにするため、花や小さい果実を摘出することが行われます。これを摘花・摘果(てきか)と言い、本来果実に行くはずだった栄養を強制的に葉や茎へ送ることができます。このような人為的な処理によって草勢を強くすることができます。
逆に草勢を弱い方向へ持っていきたい場合は、伸びる勢いの強いつるの先端を摘出することで、一時的に栄養を花や果実へ送ることができます。
少し難しかったかな?草勢や栄養生長・生殖生長は栽培者にとっては永遠のテーマと言えるほど奥深いものなんだ。初心者のうちにきちんと考え方を身につけてほしいと思って記事を作成しました。