春キャベツってよく聞くけど何のことかな?
農業の世界では、それを「作型」と言ってとても重要な部分なんだ。一般的な使われ方と違う場合もあるから注意が必要なんだよ。
作型とは何か
作型とは、言葉通り「作る型」であり「つくり方」と言い換えてもよいものです。ただし、どのようなつくり方であっても作型と呼べるものではありません。原則、播種から収穫までの期間、環境に適したつくり方であり、それが経済的に成立するものでなくてはいけません。また、部分的なつくり方ではなく、播種から収穫までの全体のつくり方を指すことを覚えておきましょう。
先ほどの「春キャベツ」は一般的には「春にとれた柔らかいキャベツ」のことを言うと思うけど、農業的には「春に播種して収穫したキャベツ」あるいは「春に収穫したキャベツ」を言うよ。次は作型の呼び方を学んでいこう。
作型の呼び方
作型とは前項で学んだ通り、本来「つくり方」を指すものですが、生産者あるいは流通関係者、消費者など、さまざまな人たちの間で何気なく使われるようになっており、実は決まった作型の呼び方というものはありません。それぞれが勝手に解釈して使っているのです。その中で最も多いパータンは①の「作付け期の呼称」ですので、これは覚えておきましょう。
① 作付け期(播種時期)を基準にする場合の例
・3月播きダイコン
・春播きレタス・・・など
② 収穫時期を基準にする場合の例
・8月どりホウレンソウ
・冬どりタマネギ・・・など
③ 現在の環境・技術を基準とするもの
・早熟作型
・抑制作型・・・など
③の現在の環境・技術を基準とするもの、が分かりづらい部分なのでこれから解説していくよ。ここでは次の代表的な5つを覚えておきましょう。
③の「現在の環境・技術を基準とするもの」は技術関係者で最もよく使われる呼称方法です。これらを理解するにあたって、「普通栽培」と呼ばれる作型が基準にあります。
a 普通作型
ここで言う普通栽培とは、春になって気温が上昇してから播種し、それ以降保温や加温をせずに栽培する作型を言います。ここで一つ注意が必要です。例えばトマト栽培などでは播種や育苗に一切保温や加温せずに栽培する方法はほとんど少数派となっています。つまり、この「普通栽培」の普通とは「どこにでもある、一般的な」という意味とは異なることは覚えておきましょう。
また、保温や加温をせずに栽培できる時期は地域によって異なりますので、「普通栽培」が指す時期も地域によって異なることも併せて注意が必要です。
b 早熟作型
普通作型より収穫時期を早めるために、苗を保温(ビニールなどを被せて温める)、あるいは加温(暖房機器などの熱源を用いて温める)してから定植する作型を言います。定植後もビニールトンネルなどを用いてさらに保温する場合は「トンネル早熟作型」と言います。また、定植後は通常の露地栽培となる場合は「露地早熟作型」と言います。
現在では、保温資材の普及や、安価な育苗用暖房機器が販売されているため、早熟作型が標準的な作型となっています。
c 半促成作型
早熟作型よりもさらに収穫時期を早めるために保温・加温する作型を言います。ほとんどの場合、収穫時期を早めるためにビニールハウスを用います。
早熟栽培より早く収穫するために、生育期間の半分程度は保温・加温が必要となります。保温のみの場合は「無加温半促成作型」、加温する場合は「加温半促成作型」と呼ばれることがあります。
d 促成栽培
半促成作型よりもさらに収穫時期を早めるために保温・加温する作型を言います。促成栽培の場合は、播種から収穫までほぼ全ての期間を保温・加温します。
e 抑制作型
普通作型よりも収穫時期を遅らせる、あるいは収穫時期を延長する作型を言います。
露地栽培の収穫期間を遅らせる「露地抑制作型」と言いますし、ビニールトンネルなどを使用して収穫期間を遅らせるものを「トンネル抑制作型」、ハウスを使用するものを「ハウス抑制作型」と言います。また、加温する場合は「ハウス加温抑制作型」と言います(単に「加温抑制」と言う場合もあります)。
いずれも最初に言った通り厳密な区分ではないし、厳密に区分する意味はあまりないよ。ただ、本を読んだり、専門家とコミュニケーションをとるときに必要となるものだから、だいたいのところを覚えておいてね。
作型は品種が重要!
作型、つまり「つくり方」を構成するもののうち、品種と育苗技術が重要と言われています。
品種は遺伝的にその作物の性質を決定付けるもののため、多くの場合、通常の管理技術では到底及ばないようなパフォーマンスを発揮させることも可能です。いくつかの例では、品種の力によって作型が成立することもあります。
キャベツを例に見ていきましょう。キャベツは、一定の大きさになってから低温にあたると花が形成されます。当然、花の咲いたキャベツは売り物にならないためこれは避けなければなりません。この低温の程度は遺伝的に決まると言われています。ある品種では遺伝的に相当な低温にあたっても花が形成されない性質を有しています。この場合、他の品種では寒い時期に収穫することができませんが、この品種では収穫することができ作型として成立することができます。
これは一例ですが、他にも耐寒性(寒さに耐える性質)や耐暑性(暑さに耐える性質)などでも同様に作型成立が可能となるか否か、品種で決まってしまうことは多くあります。栽培を始めるにあたって品種を選ばずにスタートすることはほとんどないでしょう。ここで学んだ通り、品種によってはそもそも収穫に至らない場合もありますので、品種を選ぶ際には相当な事前調べが必要となることを覚えておいてください。
品種については別の解説記事を作成予定です。
作型は育苗技術も重要!
品種の次に育苗技術が重要となります。
「苗半作」とか「苗七分作」という言葉があります。これは、苗作りの成否が栽培全体の作柄の半分、あるいは7割を占める、といった意味です。それだけ育苗が重要であることを示した農業の格言として知られています。
この育苗が重要である点をもう少し掘り下げてみましょう。理由はいくつもありますが、主なものとして「生育が遅い生育初期の環境を整えることができ、生育期間を短縮することができる」というものがあります。
下の図をご覧ください。
これは植物の「生長曲線」と呼ばれるものを示しています。
植物は図のように①生長が遅い生育初期、②急激に生育する生育中期、③生長が鈍くなる生育後期、の3つのステージをたどって生長します。
多くの作物は気温の高い春から秋の季節に生長します。一方、気温の低い冬は生育が鈍く、品目によって寒さで枯れてしまうこともあります。そのため、栽培可能時期とは一定の気温以上となる時期となります。
ここで、もし育苗を行わない場合、この一定気温以上となった時点がスタートとなります。先に述べた通り、生育初期は生長が遅いため、育苗を行わない場合のスタートでは十分に生育しきれないまま栽培可能期間を終えることになります。
一方で育苗する場合はどうでしょう。多くの場合育苗はビニールハウス内で行われます。また、限られた空間のため暖房などで加温することも可能でしょう。そのため、生育初期の生長が遅い時期を早めることも可能となります。そして栽培可能期間をある程度生育が進んだ「苗」という形でスタートすることができ、栽培可能期間の終わり時点では十分に生育しきった状態となります。
このように育苗があるかないかで作型が成立するかどうかまで変わってきてしまいます。それだけ作型、ひいては現在の農業技術に育苗は欠かすことのできない重要な工程となっています。
育苗については別の記事でもう少し詳しく解説していくよ。